最も広義には〈運動機能にかかわる神経〉の意味で用いられるが,この場合は具体的な構造としての運動神経は定義されていない。狭義には,筋肉に直接到達してこれを作動(支配)させる神経motor nerve,すなわち筋肉にシナプス結合する神経のことをいう。しかし,筋肉にも,骨格筋や心筋などの横紋筋のほか,消化管・子宮・膀胱などの内臓や血管の運動をつかさどる平滑筋がある。そこで,最も狭義の運動神経は骨格筋を支配する神経と定義される。
運動神経を骨格筋に送っている神経細胞の代表的なものが脊髄前角細胞である。眼球を動かす外眼筋,頭顔部にある表情筋,軟口蓋・咽頭・喉頭・舌などの横紋筋などに運動神経を送っている神経細胞は脳幹にあるが,これらもまた脊髄前角細胞と同類の運動神経細胞である。ポリオ(小児麻痺,急性灰白髄炎)のウイルス(ポリオウイルス)は好んでこれらの運動神経細胞を侵す。もし,ある運動神経細胞がポリオウイルスに侵されると,その運動神経細胞が支配する筋肉が麻痺する(作動しなくなる)わけである。
一方,骨格筋を支配する運動神経細胞のなかにもやや性質の異なるものがある。それは,筋肉の感覚器である筋紡錘を支配するγ運動神経細胞で,普通の運動神経細胞よりも一般に小型であると考えられている。γ運動神経細胞が筋紡錘に送る神経はγ(神経)繊維と呼ばれ,筋紡錘の長さを変化させて,いわば筋紡錘の感度調節を行っている。
以上のように,運動神経は骨格筋に到達している神経であるが,骨格筋に到達している神経のすべてが運動神経ではない。筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ腱器官)など,筋肉に備わっている感覚器によってとらえられる筋肉の状態を中枢神経系(脳と脊髄)に伝達する感覚神経も運動神経といっしょになって筋に出入りしているからである。したがって,肉眼的にみて筋肉に連なっている神経(筋枝または筋神経)のことを運動神経と呼ぶのは誤りである。
一方,〈運動神経〉をやや広義に用いて,心筋や平滑筋の運動をつかさどる神経を心臓運動神経,血管運動神経などと呼ぶこともある。さらに,中枢神経系に出入りする神経を2群に分け,入るもの(入力神経,求心神経)を感覚(知覚)神経,出ていくもの(出力神経,遠心神経)を運動神経と呼ぶこともある。しかし,この場合には,汗腺や唾液腺その他の消化腺などの腺の分泌をつかさどる神経(分泌神経)も運動神経に含まれることになり,混乱を招きやすい。
〈あの人は運動神経がよく発達している〉とか,〈あの人は運動神経がにぶい〉などという言い方がよく行われているが,運動の上手な人では,運動の下手な人よりも運動神経の数が多いとか,太いとかいうようなことは知られていない。これらのことは,もっと広く,運動系や神経系など,その個体全体の構造とその機能状態の結果として理解すべきことであろう。
→神経系
執筆者:水野 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
脳幹(のうかん)および脊髄(せきずい)から出て骨格筋にいき、身体運動の調節をつかさどる末梢(まっしょう)神経で、感覚器から脳にいく感覚神経の対語である。脳幹からは眼筋へいく動眼神経、滑車(かっしゃ)神経、外転神経、舌筋にいく舌下神経、首や肩の筋へいく副神経が出ている。また脊髄の前角細胞からは四肢や躯幹(くかん)の筋にいくものがある。骨格筋のほかに心筋や平滑筋を支配する神経は自律神経系に属しているが、血管運動神経などとよばれているように運動神経の性質をもっている。
ヒトの運動神経には、神経線維の太さが、10~20マイクロメートルのものと、3~6マイクロメートルのものがあり、前者の太いほうをα(アルファ)線維、後者の細いほうをγ(ガンマ)線維とよぶ。α線維は筋肉を収縮させ、物を持ち上げるなどの仕事をする働きをもっているが、γ線維は筋収縮の程度を感知する筋紡錘という受容器の感度を調節する働きをもっている。たとえば、足の筋肉へいくα線維が損傷すると、筋肉が麻痺(まひ)して立てなくなるが、γ線維の損傷では筋肉は収縮するが、その程度がわからないので、立つことはできても、ぐらぐら揺れて結局は倒れてしまう。また1本の運動神経線維は、末端にいって枝分れをして、いくつかの筋線維を支配している。四肢の筋肉のように大きな筋力を必要とするところでは、1本の運動神経が100本以上の筋線維を支配しているが、顔や指の筋肉のような繊細な運動を要求されるところでは、わずか数本の筋線維を支配しているという法則がある。
[鳥居鎮夫]
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